レオナルド・ダ・ヴィンチが「モナ・リザ」を描くために発明した「スフマート」技法は、
1/30~1/40mm(10^-5m)のミクロ点描技法であるとジャック・フランクは唱えた。
これは自然現象に潜む最小単位の物理法則から芸術を立ち上げようとする思想が結実したものだと考える。
現代科学が人類にもたらした「眼」は遥か133億光年先(10^28m)の星を発見するところから、物理的最小単位である素粒子(約10^-35m)の振る舞いを捉えるまでのスケールを獲得した。
本展では画家として持ち得るスケールの領分を把握するところからスタートし、科学技術が到達したスケールや理論をもとに芸術分野が捉え得る最小単位について考察と刷新を図りたいと考える。
ダ・ヴィンチと並び、東洋においては葛飾北斎が科学を記述する数学的言語によって自然を捉え、作品に昇華させようとした。
「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の数学的構造は、自然物の造形原理に見られるフラクタル構造と同様の性質を持ったものである。
ダ・ヴィンチと北斎は時代も思想的背景も異なるが、驚異的な自然観察眼と数学的アプローチにおいて共通するのである。
二人の巨匠が残した名画が時代や文化を越えてなお人々を魅了し続ける背景には、作品の持つ構造が自然の造形原理と同じ性質を孕んでいる事が挙げられるかもしれない。
私はこの自然の法則(最小単位=万物の理論)から芸術を立ち上げるという思想を踏襲、発展させながら、そのスケールを現代人類が獲得した科学的根拠にまで拡張することで、芸術分野の領分を刷新し、芸術が真の意味で本質的な美の追求に旅立つ時としたい。
本展覧会では、ダ・ヴィンチと北斎の両巨匠の数学的アプローチを解体、再構成しながら、その先に接続し得る現代科学と芸術の可能性を各展示ブースを巡る中で提示する。
この考察と展開を共有する機会が鑑賞者にとってそれぞれの「Paradigm Equinox」=「価値の転換する分点」となることを願いたい。
展示風景
写真:佐藤雄治
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