Summary
アインシュタインの相対性理論とピカソのキュビズムという、20世紀の科学と芸術の革命。新たな時代を拓いた彼らに大きな影響を及ぼしたのは、アンリ・ポアンカレの著書「科学と仮説」だった。そこに示された非ユークリッド幾何学や四次元の描像は、近代化の大きな変動の中にあった当時の人々に新時代のビジョンを授けた。かの有名なデュシャンの「大ガラス」も、その例に漏れない。キュビズム的手法で時間と運動を描いていたデュシャンは、ポアンカレの「次元の切断」という記述をもとに四次元の作品を構想したのである。
ポアンカレが完成させたトポロジーは、その後の科学発展の大いなる基礎となり、今や21世紀の自然科学は「高次元」を中心に理論が組み上げられている。その専門性はもはや一介の画家が知り得る水準から遠くかけ離れてしまったが、私はあえて絵画を「次元の芸術」 と捉え直すことで、先人たちの仕事に新たな光を当てたい。そこから、現在の高次元物理理論や現代数学との接続を視野に入れた21世紀の絵画をはじめたいのである。
高次元を扱うトポロジーに「ファイブレーション」という次元の切断と再構築の技がある。絵画の二次元性を考えた際、私はそこから地図に用いる等高線を想起した。今回の個展では、この着想を更に展開し「座標系の運動」「回転」「レイヤー」という要素によって高次元世界に広がる景色を類推してみようと思う。
照明器具協賛: アイティーエル株式会社